Claude Code で開発していて、「AIに任せたら最初は速いのに、後半でバグの修正が止まらなくなる」「セッションをまたぐと違うアーキテクチャを採用されてしまう」と感じたことはありませんか?
それ、いわゆる vibe coding(ノリのコーディング) の典型的な症状です。Andrej Karpathy 氏が2025年2月に提唱したこの開発スタイルは、2026年5月に開催された Sequoia AI Ascent のトークで本人自身が 「agentic engineering」 と改名するに至りました。「コードを書く」のではなく「エージェントを設計してコードを書かせ、検証する」という流れへの移行を象徴する出来事です。
その agentic engineering を支える主役のひとつが、仕様駆動開発(Spec-Driven Development、以下 SDD) です。この記事では、SDD ツールの中でもいま勢いのある GitHub Spec Kit(v0.8系)と、Anthropic が2026年5月に発表した Claude Code の Auto Mode との関係も整理しながら、実例コード付きで詳しく解説していきます。
なぜ今 vibe coding が見直されているのか
vibe coding は本来「コードの存在を忘れて、AIにノリで書かせる」スタイルでした。試作品をすばやく作るには強力ですが、本番運用に耐えるコードを書こうとすると、以下のような問題に直面します。
- 存在しない API を Claude が「ありそう」と判断して呼び出してしまう
- セッションをまたぐと別のアーキテクチャを選び直してしまう
- レビューしきれない巨大な PR が量産される
- フロントとバックエンドで前提が食い違う
Karpathy 氏が Sequoia AI Ascent 2026 のトーク「From Vibe Coding to Agentic Engineering」で語ったのは、「vibe coding は欲しいものを言葉で投げて返ってきたものを受け入れるスタイル。agentic engineering はシステムを設計し、制約を仕様化し、自分で考え抜いた実装を AI で加速するスタイル」というニュアンスでした(Sequoia 公式の動画ベース)。
この変化が、SDD ツール群の台頭を後押ししています。
2026年5月時点の SDD ツール勢力図
現時点で主要な SDD 系ツールは3つです。
| ツール | 提供元 | 特徴 |
|---|---|---|
| Spec Kit | GitHub 公式 | 5フェーズ構造ワークフロー。v0.8系で workflow engine + catalog に進化 |
| Superpowers | Jesse Vincent | ブレインストーミング起点。subagentループでTDD強制 |
| OpenSpec | Fission-AI | TypeScript製で軽量。Brownfield向き |
本記事は GitHub 公式の Spec Kit をメインに据えて解説します。なお Spec Kit はリリース速度がとても速く、2026年2月から5月までの3ヶ月間でおよそ30回のリリースを重ねています(公式 CHANGELOG より)。古い記事を参考にすると CLI のフラグ名が変わっていることがあるので注意してください。
Spec Kit のインストール(v0.8.8 時点)
Spec Kit は Python ベースのツールで、uv というパッケージマネージャを使ってインストールします。
# 一度だけ試したい場合
uvx --from git+https://github.com/github/spec-kit.git specify init my-todo-api --integration claude
# 永続的に入れる場合
uv tool install specify-cli --from git+https://github.com/github/spec-kit.git
# 既存ディレクトリに後から導入
specify init . --integration claude
ここでひとつ注意点があります。--ai claude というフラグは v0.7.1(2026年4月)から非推奨です。現在は --integration claude を使いましょう。同様に --no-git も v0.8.2 で非推奨化されて、v0.10.0 で完全に廃止される予定です。
初期化が終わると、プロジェクトに以下が追加されます。
.specify/memory/constitution.md— プロジェクトの「憲法」.claude/commands/speckit.*.md— 各フェーズ用のスラッシュコマンドspecs/— 機能ごとの仕様ファイル
v0.8系で追加された便利コマンド
5フェーズワークフローの本体とは別に、運用を楽にするコマンドが追加されています。
| コマンド | バージョン | 用途 |
|---|---|---|
specify doctor |
v0.3.0(2026-03-13) | 環境チェック(uv, git, ai integration を一括検査) |
specify status |
v0.3.1(2026-03-17) | 現在の spec フェーズの進捗確認 |
specify integration |
v0.5.1(2026-04-08) | AI integration の追加・切り替え |
導入直後は specify doctor で環境を確認しておくと、後でハマる確率がぐっと減ります。
5フェーズワークフロー
Spec Kit の核心は、5つのスラッシュコマンドを順番に実行していくフローです。
| コマンド | 出力 | 役割 |
|---|---|---|
/speckit.constitution |
constitution.md |
プロジェクトの絶対ルール |
/speckit.specify |
spec.md |
「何を」「なぜ」だけ書く |
/speckit.plan |
plan.md ほか |
「どう作るか」を技術選定込みで |
/speckit.tasks |
tasks.md |
アトミックなタスクリスト |
/speckit.implement |
コード | 上記すべてを参照して実装 |